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熊本地方裁判所 昭和48年(ワ)66号 判決 1977年10月25日

原告

堀内竜昭

被告

林盛達

ほか一名

主文

一  被告らは原告に対し、各自金一三五九万一五四三円及びこれに対する昭和四八年二月一七日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は被告らの連帯負担とする。

四  この判決は第一、三項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告らは原告に対し各自金一五〇〇万円及びこれに対する昭和四八年二月一七日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担

3  仮執行宣言

二  被告ら

1  請求棄却

2  訴訟費用原告負担

第二当事者の主張

一  原告の請求原因

1  事故の発生

日時 昭和四五年二月二三日午後五時四〇分ころ

場所 熊本県八代郡竜北村大字網道二八二番地(当時の地名地番である)上田数好方前の道路上

態様 右道路を横断中の原告に被告林盛達(以下、「被告盛達」という。)運転の自動二輪車(松橋町か二〇一号、総排気量九〇cc、以下、「本件車両」という。)が衝突(以下、「本件事故」という。)

2  原告の傷害及び後遺症

原告は、本件事故により、右顔面割創、右前頭部・左後頭部・側頭部骨折、脳挫創の傷害を受け、入通院の治療にも拘らず原告の知能の発達は極度に害されている。

3  被告らの責任

(一) 被告盛達

被告盛達は、本件車両を運転し、八代市方面から熊本市方面に向かい時速約五五キロメートルの速度で現場道路にさしかかつたが、当時、現場は小雨が降り路面は湿潤していたため、制動効果低減の状態にあり、しかも現場は商店前で人の出入りの予想されるところであつたので、このような場合、前方を注視して運転し、他人に危害を及ぼさないように充分減速すべき注意義務があるのにこれを怠り、漫然前記速度のままで進行したため本件事故を惹起したものであるから、民法第七〇九条に基づく責任がある。

(二) 被告林春野(以下、「被告春野」という。)

被告春野は、本件車両の所有者としてこれを自己のため運行の用に供していたものであり、仮にしからずとしても、同被告は、当時、高校生(一七歳)であつた被告盛達を同居させその生活費の全部を負担しその生活全般にわたり保護監督の下にして、本件車両の購入名義人ともなつており、更に、同被告は被告盛達が通学の用に供していた本件車両の保管場所を常時提供して本件車両の維持管理、運行に対する指示・監督・制御をなし得る地位にあつたものであるから、自賠法第三条に基づく責任がある。

4  原告の損害

(一) 積極損害

(1) 治療費 金六二万八〇八五円

但し、自賠責保険から受領した治療費分の金五〇万円を控除した残額である。

(2) 入院付添費 金二七万円

(3) 入院雑費 金八万三六〇〇円

(4) 輸血者に対する謝礼 金二万八〇〇〇円

(5) 医師・看護婦に対する謝礼 金三万九七〇〇円

(6) 通院交通費 金一二万三一八〇円

(二) 逸失利益

原告は、昭和三九年四月一日生まれで、事故当時五歳の健康な男子であつて、少なくとも高等学校まで進学して、就労したことは明らかであるところ、本件事故により、知能の発達が極度に害されたため、終生にわたり就労が不可能な状態となつた。原告は、本件事故がなければ満一八歳から満六三歳までの四五年間稼働し、その間少なくとも毎年昭和五〇年度企業規模計男子高校卒労働者の平均年間所得額である金二二六万五一〇〇円を下回らない収入を得たはずであるから、これを基礎としてホフマン方式により年五分の割合の中間利息を控除して原告の逸失利益を算定すると、金五二六二万〇五三八円となる。

(三) 慰藉料 金一〇〇万円

5  損害の填補

原告は、以上のとおり合計金五四七九万三一〇三円の損害を蒙つたところ、被告らから金五四万六五八二円の支払を受けた外、自賠責保険の政府保障事業から金一六八万円の支払を受けたので、これらを原告の損害に充当すると残額は金五二五六万六五二一円となる。

6  よつて、原告は被告らに対し内金としてそれぞれ金一五〇〇万円及びこれに対する事故発生の日の後である昭和四八年二月一七日(訴状送達の翌日)から支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する被告らの認否

1  請求原因第1項の事実は認める。

2  同第2項の事実は不知。

3(一)  同第3項の(一)の事実中、本件車両の速度が時速五五キロメートルであつたとの事実は否認し、事故原因は争い、その余の事実は認める。被告盛達が本件事故現場付近にさしかかつた際の時速は五〇キロメートル以下の速度であつた。仮に、被告盛達に減速義務違反があつたとしても、右義務違反と本件事故とは因果関係は無い。

(二)  同第3項の(二)の事実中、本件車両が被告春野の所有であるとの事実、本件車両が被告盛達の通学の用に供されていたとの事実及び被告春野が本件車両の保管場所を提供していたとの事実はいずれも否認し、その余の事実は認める。本件車両は、被告盛達がアルバイトでたくわえていた金員で父たる被告春野に内緒で自ら買い求めたものであり、その登録名義についても、被告盛達が未成年であつたため、被告春野名を無断で使用したものである。

4  同第4項の事実は不知

5  同第5項の事実中、損害填補の事実は認める。

三  被告らの抗弁

1  免責

被告盛達には、本件事故に関し、前方注視義務違反及び減速義務違反その他の注意義務の違反は全く存せず、仮に、減速義務違反があつたとしても、右義務違反は本件事故と因果関係を有せず、本件事故は、原告の道路上への飛び出しによる一方的過失により惹起されたものであり、本件車両には構造上の欠陥ないし機能の障害も無かつたので、被告盛達は免責される。

被告春野が、仮に本件車両の保有者であるとしても、本件事故は原告の一方的過失により惹起されたもので、被告盛達には不注意はないから、被告春野は自賠法第三条但書により免責される。

2  過失相殺

仮に、被告らに何らかの責任があるとしても、本件事故の主因は、原告が道路を横断するに際し、左右の安全を確認することなく、いきなり道路上の本件車両の直前に飛び出したことによるものであり、本件事故については、原告の親権者らについても、児童の保護者として監督義務を怠つた過失があるから、これも斟酌すべきである。

四  抗弁事実に対する原告の認否

抗弁事実はいずれも否認する。

第三証拠〔略〕

理由

一  請求原因第1項の事実については、当事者間に争いがない。

二  原告の傷害及び後遺症

成立に争いのない甲第一ないし第三号証、第一三、第一四号証、第一六ないし第二三号証、証人岩村清春の証言により真正に成立したと認める甲第九号証、証人松本美知代の証言により真正に成立したと認める甲第一五号証、原告法定代理人堀内多世子尋問の結果(第二回)により真正に成立したと認める甲第二四号証の一、第二五号証、第二六号証の一、証人堀田直子、同愛甲健、同岩村清春、同松本美知代、同吉田昭子の各証言、原告法定代理人堀内多世子尋問の結果(第一、二回)を総合すると、次の事実が認められ、これを左右するに足りる証拠はない。

原告は、本件事故により、右顔面割創、右前頭部・左後頭部・側頭部骨折・脳挫創による小量の脳実質の脱出等の傷害を受け、直ちに守安外科医院に収容されたが、意識は昏睡状態で危険な状態にあつたため、同日、熊本労災病院に転院したものの、一か月前後の間、半昏睡状態が続いた状態にあつたが、昭和四五年四月二七日、硬膜下水腫を除去するにより快方に向い同年六月一六日までの一一四日間同病院に入院(その後、昭和五二年五月一三日までの間に実日数二〇三日間にわたり同病院に通院)、昭和四五年六月二九日から同年七月九日まで一一日間八代総合病院に入院(同病院には同年五月二一日から昭和五一年二月四日までの間に実日数九一日間通院)、昭和四五年一一月四日と同月一二日に済生会熊本病院に通院、昭和四七年三月二八日から同年四月八日までの間において安武医院に入院七日間通院三日間、同年一二月二七日から昭和五二年五月二四日までの間において国立熊本病院に入院八九日間通院一二日間に及ぶ治療ないし診察を受けたものの、その後も現在なお少なくとも毎月二回にわたり熊本労災病院に通院して抗てんかん剤の投与を受け、更に、少なくとも年に一、二回は精密検査のため国立熊本病院で診察を受けることとなつている。

原告は、本件事故に遭遇する以前においては心身ともに通常の域を下ることはなかつたが、本件事故による脳挫傷のため、頭部外傷後遺症による外傷性(症候性)てんかんの発作性異常波所見がみられ、側脳室が中等度拡大して左大脳半球の萎縮が高度となり、これまでにてんかん大発作が少なくとも五、六回発生し、記銘・記憶力の障害、計算力の低下が著明で、知能障害、性格障害のため注意力が散慢で、持続性に欠け抑制力に乏しく知覚・思考機能の崩壊傾向が認められ、そのほかに四肢の軽度の痙性麻痺と視力障害(左眼瞼裂傷、右角膜片雲により視力が右〇・一、左〇・四、瞼が十分閉眼できない。)の後遺障害が認められ、現在、通学はしているものの、昭和四八年度の小学校三年生から特殊学級に編入されている。右後遺症は、現在のところ改善の見通しはなく、将来においても、精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないものと認められる(なお、右後遺症は、自賠法施行令別表中の第五級程度に相当するものと考えられる。)。

三  被告らの責任

1  被告盛達の責任

(一)  成立に争いのない甲第八号証、第一一号証、被告盛達本人尋問の結果によれば、現場は、非市街地のアスファルトで舗装された幅員約六メートルの県道で、中央線の引かれた片側一車線の道路であつて衝突現場付近は幅員三メートル前後の路地と十字型交差をなしており、本件道路の法定最高速度は本件自動二輪車の場合時速五〇キロメートルであり、本件事故当時、小雨模様で路面が湿潤していたことが認められる。

そこで、安全運転義務を尽くすに足りる走行速度を検討すると、自動二輪車である本件車両の場合、本件事故現場における法令による制限最高速度が時速五〇キロメートルであるから、乾いたアスフアルト路面における車両の停止距離は時速五〇キロメートルの場合約二五メートル(空走距離約一〇メートル制動距離約一五メートル)であつて、乾いたアスフアルト路面に比べ湿潤したアスフアルト路面の場合は車両の制動距離が約一・五倍になることは当裁判所に顕著である。右事実からすれば、乾いたアスフアルト路面において最高速度を時速五〇キロメートルとして走行を許容される車両は、湿潤したアスフアルト路面を走行する際には時速約四〇キロメートル(この場合の停止距離が約二三メートルとなる)程度の速度で走行すべきことが明らかとなる。

前掲第八号証、第一一号証成立に争いのない甲第一二号証によれば、被告盛達は本件事故現場に時速約五五キロメートルでさしかかつたものと認められ、被告盛達本人尋問の結果のうち右認定に反する部分は採用せず、他にこれを覆すに足りる証拠はない。右事実に前記明らかとなつた事実を併せ考えると、被告林盛達は安全運転を尽くすに足りる走行速度としては少なくとも約一五キロメートルの速度を超過して走行していたものと判断される。

(二)  次に、前掲甲第八号証、第一一号証、被告盛達本人尋問の結果を総合すると、現場道路添いには約一メートル位離れて雑貨店があり、そこと本件道路は約三〇センチメートルの段差となつて道路の方が高くなつていること、被告盛達が本件事故直前に原告を発見したと称するのは前方約一一・二メートルに接近した地点で、その際の原告の位置は右雑貨店側の道路端から一歩位踏み出した地点と称し、その地点から道路中央に約四・二メートル進行した地点で原告と本件車両が衝突していること、原告は事故直前に右雑貨店から小走りで出て来たものであるが、当時原告は満五歳一一月の幼児であるから、小走りとはいえ大人の早足よりも遅く、せいぜい時速にして一〇キロメートル以下と考えられるところ、原告の右進行距離約四・二メートルと被告盛達が原告を発見した位置が約一一・二メートルで、しかも被告盛達運転の本件車両の速度が時速約五五キロメートルの速度であつたことは前認定のとおりであるから、これからしても被告盛達は原告を発見した当時、原告を注視していたとは到底考えられないことが推認される。

(三)  以上の認定判断によれば、被告盛達には、制限速度違反、前方注視義務違反、安全運転義務違反の過失があることは明らかである。

従つて、被告盛達は、民法第七〇九条に基づき原告の蒙つた損害を賠償する責任がある。

2  被告春野の責任

(一)  本件車両が林春野の所有に属していたことは、本件全証拠によるもこれを認めることができない。

(二)  本件車両が被告盛達の所有に属し、同被告は本件事故当時高校生(当時一七歳)であり、被告春野は被告盛達の実父で、同被告を同居させ、その生活費全部を負担していたもので、同被告はその生活全般にわたり被告春野の保護監督の下にあつたこと及び本件車両の登録名義人が被告春野となつていることは当事者間に争いがない。

前掲甲第一一号証及び被告盛達本人尋問の結果によれば、被告盛達は本件車両を本件事故の約一カ月前に他から金二万一、〇〇〇円で購入したが、右代金はアルバイト等でたくわえた金を頭金として他は月賦で支払つたこと、同被告は、これを被告春野方小屋に駐車保管し、通学その他の用に供していたことが認められる。

右事実からすれば、被告盛達と同居する被告春野は、例え被告盛達が本件車両を購入した時には右事実を知らなかつたものとしても、自ら所有し居住する家屋内に被告盛達が本件車両を一か月前後にわたつて保管していたのを知らなかつたものとは認められず、被告春野の供述のうち右認定に反する部分は前認定事実に照らし措信できない。

前記争いのない事実及び右認定事実によれば、被告盛達はアルバイト収入で本件車両を購入したとはいえ、未だ高校生であつて被告春野の扶養がなければ生活できず、本件車両の維持管理費についても結局同被告の負担に帰するものであるから、被告盛達の親権者でその監督義務の責任のある被告春野は本件車両の運行を事実上支配管理することができ、社会通念上その運行が社会に害悪をもたらさないよう監視、監督すべき立場にあつたというべきであつて、本件車両の運行供用者にあたると解される。

従つて、被告春野は、自賠法第三条に基づき原告の蒙つた損害を賠償する責任がある。

四  原告の損害

1  積極損害

(一)  治療費

前掲甲第一ないし第三、第二一ないし二三号証、成立に争いのない甲第四号証の一ないし三、第五号証、原告法定代理人堀内多世子尋問の結果によれば、原告は、本件事故による受傷のため、治療費として、昭和五二年五月二四日までに金六二万七八四〇円の支払をなしたことが認められるが、これを超える金員を支出したことを認めるに足りる証拠はない。

(二)  入院付添費

前認定のとおり、原告が本件事故受傷のため、昭和四五年度に一二五日間、昭和四七年度以降に九六日間それぞれ入院したが、右入院中、原告の母である堀内多世子が原告を付添つたことに同法定代理人尋問の結果(第二回)によりこれを認めることができる。前認定の原告の傷害の部位、程度、症状の経過、年齢等に照らすと、原告は、入院付添費として、昭和四五年度の入院が一日一、〇〇〇円宛、昭和四七年度以降が一日一、五〇〇円宛を下回らない額の損害すなわち合計金二六万九〇〇〇円を要したものと認めるのが相当である。

(三)  入院雑費

前認定の原告の傷害の部位、程度、入院期間に照らすと、原告は、本件事故受傷による入院雑費として、昭和四五年度が一日三〇〇円宛、昭和四七年度以降が一日四〇〇円宛の支出を余儀なくされたものと推認するのを相当とするので、原告は入院雑費として計金七万五九〇〇円の損害を蒙つたものと認められる。

(四)  輸血者に対する謝礼

原告法定代理人堀内多世子尋問の結果(第二回)によれば、原告は、本件事故受傷のため、七名の者から輸血を受け、その提供者に対し合計金二万八〇〇〇円相当の金品を交付したことが認められる。原告の傷害の部位、程度に鑑みると、原告の右支出は本件事故と相当因果関係にあるものというべきである。

(五)  医師看護婦に対する謝礼

原告法定代理人堀内多世子尋問の結果(第二回)によれば、原告は、本件事故受傷の手術、治療、看護等にあたつた医師、看護婦に対し、合計金三万九七〇〇円相当の品物を謝礼として提供したことが認められる。原告の傷害の部位、程度に鑑みると、原告の右支出は本件事故と相当因果関係にあるものというべきである。

(六)  通院交通費

前掲甲第二四号証の一、第二五号証、第二六号証の一、成立に争いのない甲第六、第七号証の各一、二、原告法定代理人堀内多世子尋問の結果(第二回)により成立の真正が認められる甲第二四号証の二、第二六号証の二、三及び原告法定代理人堀内多世子尋問の結果(第一、二回)によれば、原告は、本件事故受傷のため、通院交通費として金一二万三一八〇円を下回らない金員の支出を余儀なくされたことが認められる。

2  原告の逸失利益

本件記録に添付された戸籍謄本によれば、原告は、昭和三九年四月一日生まれで、本件事故当時満五歳であつたことが認められる。

前認定の如く、原告は知力体力ともに通常の域を下らなかつたが、本件事故によりその精神機能に著しい障害を残し、将来においても、特に軽易な労務以外の労務に服することができず、稼働能力を約八割喪失したものと認められるところ、原告は本件事故に遭わなければ、高等学校を卒業する一八歳から六七歳までの四九年間は就労が可能であつたろうと認められる。そこで、原告の収益は、昭和五〇年度の企業規模計男子労働者の年間所得の全国平均が二二四万三〇八八円であるから、これを基礎として、原告のうべかりし利益の喪失額をホフマン式により中間利息を控除して昭和四八年二月一七日における現価を算定すると、金三四三八万一六九三円となる。

3  慰藉料

原告の前記傷害の部位、程度及び後遺障害の程度並びに入通院状況、治療経過等一切の事情を考慮すれば金四〇〇万円を下回らない額を相当とする。原告は、金一〇〇万円を慰藉料として請求するが、本来、慰藉料における請求金額は主要事実ではなく、当事者の法律的評価の関係であるから当事者の主張には拘束されずに評価できるものであり、交通事故による身体障害に基づく損害は慰藉料等の損害費目に拘らず訴訟物は一個であると解されるので、総請求額の範囲内であれば、当事者の慰藉料請求額を超えて評価しても民訴法第一八六条に悖るものではないというべきである。

五  抗弁事実に対する判断

1  三項の1で判断した如く、被告盛達に本件事故についての過失がある以上、その余について判断するまでもなく、被告春野の免責の主張は理由がない。

2  過失相殺

被告盛達本人尋問の結果によれば、原告は、本件事故現場の道路を横断するに際し、左右の安全を確認することなく道路端から中央に飛び出して本件事故に遭遇したことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。原告の右の所為については、原告の親権者らの指導、監督の不行届きも帰因しているものと言うべく、右の各事情と前記三項で認定した被告盛達の過失その他すでに認定した諸般の事情を考慮すると、本件事故発生についての原告側と被告盛達の過失の程度の割合は、原告側六割に対し被告盛達四割と解するのが相当である。

従つて原告の損害額合計金三九五四万五三一三円につき被告らに対しいずれも右の割合により過失相殺すると、原告の被告らに対し請求し得る損害額は、金一五八一万八一二五円となる。

六  損害の填補

原告の損害についての既填補額については、当事者間に争いがない。

原告が本件事故に基づく損害のてん補として被告らから受けた金五四万六五八二円と自賠責保険の政府保障事業から受けた金一六八万円を差し引けば、原告の損害の残額は金一三五九万一五四三円となる。

七  以上のとおり、原告の被告らに対する損害賠償請求は、被告らに対し各金一三五九万一五四三円及びこれに対する本件事故発生の日の後である昭和四八年二月一七日(訴状送達の日の翌日)から支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求は理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第九二条但書、第九三条、仮執行の宣言につき同法第一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 玉城征駟郎)

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